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糖尿病治療薬を決める時の考え方

2003.4.22



 
最近発行された糖尿病専門雑誌に「21世紀の糖尿病治療薬」というテーマの座談会が載っていました。出席者は治療薬剤については日本の超一流の権威者3人です。東北労災病院院長 豊田隆謙先生、朝日生命糖尿病研究所長 菊地方利先生、川島病院名誉院長 島健二先生のお話の要点をお知らせします。その前に、糖尿病内服剤の概要についてお話しておきます。糖尿病の発病と悪化の主原因は膵臓のB細胞からのインスリン分泌障害とブドウ糖代謝過程の障害であるインスリン抵抗性であることは明かにされています。B細胞の分泌障害から末梢組織のインスリン抵抗性までの過程で治療しているのが現在の薬物療法です。

○ B細胞のインスリン分泌促進作用をもつ薬(SU剤)・・・ラスチノン、ダイヤビニーズ、ジメリン、オイグルコン、ダオニール、グリミクロン、スターシス、ファーステイック、アマリール

○ 腸管からのブドウ糖吸収を抑制する薬(BG剤)・・・ジベトスB、メルビン、グリコラン、

○ 糖分解酵素を阻害してブドウ糖吸収を遅延させる薬(α-GI剤)・・・グルコバイ、ベースン

○ インスリン抵抗性を改善する薬・・・アクトス

○ 肝臓からのブドウ糖産生を抑制する薬・・・BG剤、アマリール、アクトス

座談会におけるお話の要点は次の通りでした。
糖尿病の治療は糖尿病の発病と悪化を引きおこす原因治療(膵臓B細胞の再生と増殖、インスリン抵抗性の改善)をしなければ真の治療の意味がありません。今の治療は血糖上昇を抑える作用をもった薬剤で治療をしています。しかし数年前からインスリン抵抗性をとる薬剤が登場し原因治療の一部が可能となりました。血糖降下薬による治療は患者さんそれぞれの血糖値変動を見極めて各患者毎の治療法を決めていかねばなりません。
 

 糖尿病の初期の患者さんはインスリン抵抗性のあることに加えて、食後の高血糖がみられます。空腹時血糖は高くないのでインスリン抵抗性改善剤と食後高血糖治療剤(速効型SU剤)を用いて、早く糖毒性をとることが必要です。インスリン抵抗性改善剤はインスリンの感受性を高めることと食後高血糖の立ち上がりと降下速度を早くすると考えられます。この時期の患者さんは食事と運動療法の効果が極めて良いので、まず一ヶ月間はこれに徹底することが大切です。糖尿病の治療期間が長くなると、朝食前血糖値が高くなってきます。それに引き続き食後血糖値もより高くなり、糖毒性が一層発揮されてインスリン分泌障害が大きくなります。この時期は食前と食後血糖値がより高くなります。食前高血糖に対してはBG剤、SU剤、インスリン抵抗性改善剤を用い、食後高血糖に対してはα-GI剤、速効型SU剤を用います。これらの薬剤の選択はこれまでの患者さんのデータと医師の臨床経験で決まります。

 21世紀は糖尿病の原因治療にいつ踏み出せるかが大きな課題です。インスリン抵抗性改善剤は原因治療の一つではありますが、インスリン抵抗性を引き起こす部位をさらに明らかにする必要があります。的を絞った作用効果を上げる薬剤の登場が待たれます。内臓脂肪がインスィン抵抗性に大きく係わっていることはすでに明らかにされています。脂肪細胞から分泌される刺激物質がいかに糖尿病の発病と悪化に係わっているかについて、世界で盛んに研究されているところです。
 

 一方、膵臓のB細胞を増やしていく薬剤(原因治療)の研究も行われています。これは糖尿病患者の夢の薬剤で、自分の膵臓B細胞がインスリンを必要なだけ作ることになります。再生医療における幹細胞の採取とかその細胞数を増やしていく手間と時間が不要となります。膵臓B細胞増殖薬の研究はいま盛んに行われ良い成績が出ているようです。もしこの薬剤が実現されれば好きなものを、好きな時間に食べられるのも夢の話ではなくなるでしょう。