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お相撲さんと糖尿病

2003.8.11

 八月は大相撲地方巡業で札幌場所があることからお相撲さんの糖尿病について書きます。2003年札幌場所、若ノ里関と院長

 糖尿病になる前と、なってからの大敵はなんと言っても肥満、過大体重です。角界で身長、体重とも最も大きな力士は横綱武蔵丸の225.5kg、身長191.0cm、BMI61.8です。最も小さい力士でも海鳳121kg、若孜171cmです。ちなみに日本相撲協会が規定している入門条件は身長171cm、体重75kg以上で、BMI 25.7ですから一般人では肥満にはいります。それなら力士はみんな脂肪過多かというとそうではありません。むしろ一般の人とわりありません。幕内にいる強い力士は稽古を十分におこない運動で体内脂肪を消費しています。

 ですから皮下脂肪がたっぷりついていても内臓脂肪は多くありません。かっての大関小錦でさえ身長183cm、体重274kgと肥ってはいても内臓脂肪は常に20台と言われています。幕内力士の体脂肪率をみると平均23.5%といわれるから驚きです。この数字を現代の若者の体脂肪率と比べるとずっと低いと言えます(NHK調査)。これらのことから力士の肥満は生活習慣病を引き起こす内臓脂肪型ではないのです。

 しかし力士の日常生活は7時起床し、朝食抜きで午前中に11時までびっしり稽古が続きます。12時に朝食兼昼食のちゃんこ鍋をとり、午後1時から2時まで昼寝します。その後は各自の自主トレーニング(筋肉トレーニング)に励み午後6時半から8時までに夕食をとります。夕食は相撲部屋で取っても取らなくてもよくて、外食で好きものを食べてもよし、所帯持ちは家庭で食べてもよいことになりました。そしてよる10時に就寝となります。一日の食事摂取量は7000から8000カロリーといわれています。これを2食でとりますから、一食で一般糖尿病患者さんの二日分をとることになります。さらには昼1時間の睡眠をとりますからこれで太らないわけはないのです。

 いずれの相撲部屋の親方も稽古すること、身体を大きくすることに叱咤激励しています。しかし脂肪が貯まるまもなく、稽古で脂肪を盛んに燃焼していることが、お相撲さんの健康管理といえます。筋肉質の力士ともなれば、大関魁皇とか元横綱千代の富士、元大関北天佑などは握力100Kgあり、リンゴを握りつぶしたといわれています。力士の一日の食事回数二食と、途方もない飲食物の摂取量(かってのある横綱は一晩でビール50本、ウイスキー一本を飲みきった記録)、昼寝1時間の毎日となると、直ちに糖尿病になると思われがちですが、意外と幕内力士になると糖尿病発症するものは少ないそうです。力士690名のうち30才以下で空腹時血111mg/dl以上のものは76名(15.2%)でした。この数字は驚くことに日本人40歳以上の糖尿病発症率15.8%(厚生労働省 2002年調査)より小さいものです。特に幕内力士に限ってみると糖尿病は数名ということです。

 従ってお相撲さんも伝統の慣習に従って稽古に励み実力を伸ばしていく者には、糖尿病になり易いという俗説は関係ないといえます。むしろ規制のない生活で過ごしている一般の人の方が糖尿病になる率は高いといえます。
 

「力士たちの健康管理」バイエルブックレットシリーズ53より