ヘモグロビンA1cって何ですか 患者さんの糖尿病の良い悪いは何を基準にして判定したら良いのでしょうか。糖尿病は血糖値が高くなる病気(体質)ですから、血糖値に関わるものは総て判定基準となります。その中で最も重要なものがヘモグロビンA1c(糖化ヘモグロビン)です。ヘモグロビンは血色素ともいわれ生理的に11.2から18.3mg/dlの濃度で血液中に存在しています。ふだんは酸素や炭酸ガス、鉄分を運搬する働きをしています。 一方で血液中のブドウ糖が高くなるとブドウ糖はこのヘモグロビンに付着することをオーストラリアの研究者が1980年に見つけました(糖化現象)。ブドウ糖は蛋白質(アミノ酸)と結合しやすくいずれの蛋白質(毛髪、つめ)にも付着します。毛髪は週ごと、月ごとで伸びていきますから、毛髪に印をつけておくと数カ月前の毛髪の糖化が分析されます。 血液中のヘモグロビンは1ヶ月から2ヶ月で代謝されるので、ヘモグロビンA1cはこれまでの1ヶ月から2ヶ月間の血糖値の平均を示すといわれています。体内のヘモグロビンの糖化された割合(%)をもって糖尿病の良い悪いを判定します。正常人は5.8%以下、糖尿病の良い人は6.5%以下とされています。ここ迄のお話はどこでも聞かれ読まれるヘモグロビンA1cの一般的な解釈です。これから先は、私的見解もまじえてお話していることをお断りしておきます。 ヘモグロビンA1cと血糖値の変化について臨床研究とか詳細な解説をしている論文は世界的に見て極めて少ないと思います。ヘモグロビンA1cの数値が意味していることは何かについて3っの問題があると思います。1っは最近1ヶ月から2ヶ月間の平均的血糖値といいますが、最も影響する血糖値はどの時間帯のもので、何mg/dl以上のものか。2つ目は1ヶ月から2ヶ月の血糖値を反映しているとしても、1ヶ月前も2ヶ月前も同等にヘモグロビンに糖化を起こすものか。3つ目は併発疾患によって数値の変化(疑陽性、疑陰性)の出ることは明らかにされていますが、生理的に(年令、身体上の変化など)影響を受けることがないかです。 海外からの論文をみると、ヘモグロビンA1cに深く関与する血糖値は食前血糖とする説、食前後の血糖とする説、食後血糖が30から40%関与するという説、日中の血糖が強く関与する説など、これ迄の研究データからは統一見解は見られていません。 昨年秋、当病院に入院したインスリン治療患者さん12名にご協力を願って血糖値改善とヘモグロビンA1cの関係を調べました。糖尿病の病状が悪いことを食後血糖値が高いからと仮定して、毎食後1時間半の血糖値の経過を毎週のヘモグロビンA1cとの相関関係について1ヶ月間調べました。これによると1週毎のヘモグロビンA1cの改善(約0.45%低下)は、夕食後の血糖値と強く相関し次いで昼食後、朝食後血糖値、朝食前血糖値の順で相関関係を認めました。 入院患者さんを厳重に治療管理すると1ヶ月経過でヘモグロビンA1cは1.2%から1.5%低下します。外来患者さんでは血糖コントロールが良くなっていくと1ヶ月で約0.6から0.7%位改善されます。糖尿病が悪くなっていく時も夕食後血糖値が強く関係しているか否かは明らかではありません。なぜなら患者さんが明らかに悪くなっていく病状経過の研究が出来ないからです。 ヘモグロビンA1cを良くしていくための療養生活上のポイントが、もう少し詳しく分かると療養に張り合いが出るものと思います。最後になりましたが、今回の私どものヘモグロビンA1cの研究にご協力下さった方々に厚くお礼を申し上げます。
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