糖尿病のオーダーメイド医療とは 21世紀の糖尿病治療を半世紀ずつ前半、後半に分けて考えると、前半はほぼ20世紀の医療を踏襲し、後半は将来の治療を探索していると思います。21世紀の糖尿病治療を今の研究段階にあるものから推定して考えてみます。 1.経口インスリン 2.吸入インスリン 3.ゲノム創薬 4.遺伝子治療 ここではゲノム創薬といってゲノム(全遺伝情報)を解析することにより、糖尿病患者さん一人ひとりの薬の効果や副作用の可能性、体質を調べ、データにもとづいて投薬することをいいます。遺伝子情報に従って薬を選択するわけですから、個々の患者さんの病態にあった治療ができます。これをオーダーメイド医療といいます。またテーラーメイド医療ともいいますが、洋服を仕立てるときに身体の寸法を計りその人の体型に合った服を作るのと同じ意味からきています。これ迄はEBMといって科学的情報(診断)を基本とした医療と長期間に及ぶ治療の情報から患者さん一人ひとりの治療の情報を決めてきました。 アメリカでは新薬をFAD(厚生労働省のような役所)に申請するときには、新薬の効果を示すデータは勿論ですが副作用に関するDNAデータも必要とされてきているようです。ゲノム創薬では効き目もよく、副作用もなく、直ちに血糖降下があらわれるでしょう。しかし、患者さんの遺伝子分析に数10万円がかかり、ゲノム創薬自体も遺伝子解析されて製剤化された薬ですから薬価は高いものとなります。いま糖尿病治療で必要とされている情報は患者さんの@インスリン分泌障害とAインスリン抵抗性の大きさを知ること、血糖値に関する両者の割合を知ることです。糖尿病発病初期はAが主因となりますが、病状経過で@が徐々に加わってきます。罹病年数により@とAの比率の変わることがあります。病状経過をみる際には@とAのいずれを主体にして治療するのが最適なのかを知る必要があります。インスリン抵抗性の大きは生活習慣と遺伝子によって決まります。 生活習慣は患者さん自身のライフスタイルですが、もう一方の遺伝子は細胞内のPPAR・γの遺伝子です。PPAR・γは脂肪細胞を小さくして(分化)インスリンの効き方(感受性)を良くする働きをしています。一般にPPAR・γ遺伝子を倹約遺伝子といっています。この遺伝子の働きの良い人は僅かな食事でも効率よく体内エネルギーを貯えるので少し食べすぎると血糖値を上げるようです。普通の人と同様に食べても血糖値が上らないようにするには体内のエネルギー消費を高めるようにすることです。それにはPPAR・γの働きを抑えるような工夫をすることがよいです。これに関しては東大内科の門脇教授陣が世界的な仕事をされています。しかしオーダーメイド医療が一般化して診療に応用されるには生物学、遺伝子学、医学、社会学、倫理学、経済学さらには医学部教育における広範囲の問題点の解決と知恵を出し合って検討する時間が必要となるでしょう。 |