生体膵島移植 2005.2.16 糖尿病発病の第一の原因は膵臓のB細胞(ベータ―β細胞)から分泌されるインスリンが少ないためということは既に知っていることと思います。B細胞は膵臓のランゲルハンス島という種々のホルモンを分泌する細胞集合体の中の一つです。このランゲルハンス島を糖尿病研究では膵ラ氏島または膵島といっています。 糖尿病患者さんに不足しているインスリンを生物学的治療で補充するには膵臓移植、膵島移植やB細胞の再生医療があります。いずれの患者さんにも適応される方法は膵島移植と再生医療で、膵臓移植は重症合併症(特に腎臓障害)をもつ人が対象となります(臓器移植法)。他の臓器移植と同様、臓器移植は臓器提供者(ドナー)の少ないこと、移植手術が複雑なこと、術後の受け入れ患者(レシピエント)の管理が難しいことがあります。一方膵島移植は膵島の摘出方法が難しく、特に極めて短時間で済ますことが要求されます。ドナー一人からの膵島収量が極めて少なく(収量30%位)ドナー2〜3人分でレシピエント一人分となります。しかもドナーの中でも脳死者より心停止者が好ましく、やはり臓器提供者の少ないことは根本的な難問と言えます。 アメリカのように運転免許証を取る時や生命保険加入時に臓器移植意志表明の有無を明らかにしておく方法ありますが、その意志決定には宗教や倫理観、民族の違いがあってレシピエントの希望通りにはいきません。日本で最初の膵島移植は昨年4月7日と7月2日にクモ膜下出血をおこした心停止提供2名からの膵島移植が京都大学病院でおこなわれ成功しました。レシピエント患者さんは36才女性で15才の時T型糖尿病の診断を受けています。合併症は中程度の網膜症をもつのみで、血糖値の変動が著しく重症低血糖をしばしばおこしています。移植後118日目のブドウ糖負荷試験は正常となり、121日目でインスリン治療を離脱しました。その代わりに免疫抑制剤を常用しています。 先日の朝日新聞の記事は世界で初めての生体膵移植の記事です。死を宣告された人からの臓器ではなく、健康人からの臓器(組織)を用いたものです。生体膵島移植は移植としての理想的な方法です。20才代のT型糖尿病患者さんに50才代の母親の膵臓半分から摘出した膵島細胞を移植しました。移植で最も大切なことは膵島摘出するまでの時間が30分以内で済ますことが成功の鍵となります。 いま日本では膵島移植をした人は4名おり、膵島移植希望者が40数名いるようです。ドナー不足と臓器移植法のなかの膵島移植の項目が不十分なため、手続きの煩雑なことが問題となっています。この治療法は臓器移植より遅れをとっていますが、世界中の糖尿病研究者の注目している課題であり方法の確立されるのは時間の問題となっています。
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