糖尿病になると癌になり易い
2008.9.8 「糖尿病と癌」については2003年のこの掲示板で一度解説しています。丁度5年たちましたが、最近は特にこの両疾患の関係について疫学的な報告、解説が多くみうけます。 癌の発病率は日本人一般でも増えていますが、糖尿病患者さんではさらに増えています。癌全体で見ると日本人一般の男性と比べ1.27倍、女性1.21倍と倍率は僅かですが、肝癌、腎臓癌、膵臓癌については1.85倍から2.24倍と発病率は高くなっています。 では何故、糖尿病に癌が起こり易いのでしょうか。この問題は患者、医師にとって癌の発病、予防のために重要なことですが残念ながら確定した研究報告は出ていません。推定されることは@高インスリン血症に伴うインスリン抵抗性、AIGF-1(インスリン様成長因子—1)の増大、B肥満や運動不足、C酸化ストレスなどが考えられています。 糖尿病の合併症は、糖尿病特異的合併症として眼、腎臓、神経の障害がありますが、動脈硬化症(糖尿病非特異的合併症)による心、脳血管障害があります。最近の糖尿病における癌発病率の増大および特別な癌(肺癌、肝臓癌、膵臓癌、大腸癌、女性器癌)は日本人一般の2から3倍高いことから、これらの癌は特に糖尿病となにか強い関連性をもっているのではないかと考えられます。 糖尿病専門医の間ではこれまでの臨床成績から鑑みて癌を糖尿病非特異的合併症として合併症の一つに入れることを提案しています。癌が糖尿病の合併症となると定期的に検査をしなくてはなりません。しかし患者さんの癌検診はいまの医療保険では認められていません。なにか病状を訴えて来られた時にはその限りではありません。 当病院ではいくつかの法的制限のある中で60才以上の方には糖尿病合併症の検査と併せて癌を想定した検診を行っています。まず受診時には@幾つかの癌を想定した基本的な問診をしています。その時には特に癌という言葉は使わないで2、3の質問をします。A検便二日間、B胸部写真、C検尿、D胃部写真(入院時)、E腹部超音波検査(入院時)、F癌検診(対癌協会、癌センター、検診センター)、G甲状腺超音波検査(入院時)、H腫瘍マーカー、I貧血検査。これらの点検で癌の可能性を推測します。今年上半期も乳癌、大腸癌、肝癌、肺癌が見つかりました。膵癌5名も出たことには驚いています。膵癌の多くなっていることは世界的傾向で、アメリカのメイヨクリニックで調べた膵癌患者736名の40%が糖尿病患者であったと報告しています。 昨年の日本糖尿病学会誌で1991年から2000年の全国の糖尿病患者18、385名の死亡原因が報告されています。これは中部労災病院の堀田饒先生の研究で、私共の病院の報告も含めた全国調査結果です。糖尿病患者の死亡原因疾患の第1位は癌34.1%、第2位血管障害(脳9.8%、心臓10.2%)その他感染症、腎障害となっています。患者さんの1/3は癌で亡くなりますが、これは日本人一般の死亡原因と同じです。ただ女性より男性の発癌頻度が高く、肺癌2.56倍、肝癌2.14倍、胃癌1.78倍、大腸癌1.87倍となっています。 最後に、自分で気になる次のからだの徴候が見られた時には是非癌検診を行って下さい。癌になった時は、糖尿病になった時とくらべ病気の重みと、寿命の長さと、精神的のショックは比べようがありません。 @持続する腹痛 A持続する背部痛 B食べたくない C身体がだるい D体重減少 E血便 F血尿 G下痢または便秘 H乳房のしこり I性器出血 Jから咳きや血痰 K声が出ない、 かれる L持続する微熱 都道府県別死因順位(2008年3月 厚生労働省報告)
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