遂に出ました! 画期的な糖尿病新薬
2011.3.1 糖尿病の治療と療養のやり方が良いか悪いかの判定は、国際的にヘモグロビンA1c(HbA1c)で見ることになっています。日本のHbA1c目標値は数10年前は7.0%とされていましたが、この数値では何らかの合併症がどうしても発病することが分かり、6.5%として今日に至っています。しかしこれまでの大規模臨床試験をみると6.5%では緩いことが分かり、6.1%以下が好ましいとされています。 網膜症の起こり始めはHbA1c6.1%から始まり、厚生労働省の「国民健康、栄養調査」でも6.1%以上は「糖尿病の可能性が強い」としています。しかし毎月のHbA1cを6.1%以下に維持することは、糖尿病発病が初期の人では可能でしょうが、糖尿病になって3年以上たっている人には、極めて厳しい条件です。ところがそれを可能にする夢の新薬が20009年12月に「インクレチン関連薬」として発売されました。当病院では数年前にこの新薬の治験を行い、その効果の素晴らしいことを知りました。この治験に参加して下さった患者さんも実感して早く発売されることを心待ちにしていました。 この新薬はDPP-4阻害剤といって国内で4製薬メーカーが発売しており、製剤名をグラクティブ(小野薬品)、ジャヌビア(MSD製薬)、エクア(ノバルティス)、ネシーナ(武田薬品)といいます。その働きは小腸の粘膜から分泌されるホルモン・インクレチン(GLP-1)を分解する酵素が血中にあり、その働きを妨害する薬つまりインクレチンを保護する薬です。インクレチンはこれまでの薬剤になかった、糖尿病の治療に役立つ4つの働きを持つ薬です。1.血糖値に見合ったインスリンを分泌させる 2.グルカゴン(血糖を上げるホルモン)の分泌を抑える 3.膵臓のB細胞を増生させる 4.食欲を抑えて腹八分目の感じにさせる。 糖尿病の治療薬としては理想的、画期的な薬です。インクレチンの登場によりHbA1cを6.1%にすることは容易となり、合併症をほぼ防止できるのではないかと期待されています。これまでの治療薬に加えてDPP-4阻害剤を用いるとHbA1cは1.0%下がり、インクレチ(GLP-1)を用いると1.5%低下すると言われています。 インクレチンは体重減少させる作用もありますから、肥満患者さんには最適です。ただ残念なことにインクレチンは注射であることが欠点です。インクレチンの製剤名はビクトーザ(ノボノルディスク社)とバイエッタ(りりー社)の2製剤があります。バイエッタはアメリカ毒トカゲの唾液から抽出したインクレチンを製剤用に操作した類似インクレチンです。両製剤とも吐気を起こすことがあり、治療を始める時は1週間くらいの入院で膵臓B細胞のインスリン分泌能力を確かめて用います。インスリン治療している人でもインスリン使用量が少ない人、糖尿病になって年数の短い人はインスリン注射をインクレチン注射に変えることができます。 インクレチンに関してはこれまで3回掲示していますので、病院ホームページもご参照下さい。インクレチン関連薬は発売されて日が浅く、慎重にして治療に使われねばなりません。糖尿病治療の画期的な薬剤として今後の治療のやり方が大幅に転換されることが予想されます。 当院ではこれら新薬剤を外来、入院の多くの患者さんに使っていますが、処方した際にはここに記載した内容で充分に説明しきれないため再度掲示しました。
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