<戻る

 糖尿病患者は癌になり易いか

2012.5.2

このテーマの解説は1,2年毎に掲示板に掲載し癌検診を受けることを啓蒙しています。 また「糖尿病と癌」の特集は糖尿病月刊誌「さかえ」をはじめ多くの本や雑誌でとり上げてきました。

糖尿病患者さんは療養生活や血糖値のことで頭が一杯なのか、癌になり易いということはあまり意識していないように見受けます。昨年も多くの方が癌になりました。癌は老化現象のひとつです。どこかの細胞が老化したときに癌細胞に変わるといわれています。日本国民の3人に一人が癌になり、死因第一が癌となっています。さらに糖尿病の人は非糖尿病の人と比べ2,3倍の癌罹病率であるといわれています。 しかし癌発病の仕組みは明らかにされていないし、糖尿病になぜ癌が発病しやすいのかも明らかでありません。従ってこれまでの「糖尿病と癌」の研究は大規模疫学統計調査から推定した話となります。

はじめに糖尿病はなぜ癌を併発しやすいのか、これまでに考えられている考え方を述べます。 糖尿病は糖尿病遺伝子で発病しますが、癌も癌遺伝子と癌抑制遺伝子があるようです。ですから日常診療では糖尿病家族歴と併せて癌家族歴も尋ねるようにしています。その他推定されている原因として日本及び欧米の研究者はインスリン抵抗性、高血糖、肥満が癌を引きおこすと考えています。これら各々の発癌機序は難しいところがあり、研究結果によるものではなく推定されたものです。

つぎにどの癌が最も起こりやすいか、正常人を1としたときの倍率で男と女を比較しています。

1. 国立がん研究センター 津金昌一郎 先生の報告

1.27倍(内訳 肝癌 2.24倍、腎臓 1.92、膵臓 1.88、大腸 1.36、前立腺 0.82

1.21倍(内訳 卵巣癌 2.42倍、肝臓 1.94,子宮1.68、胃 1.61、膵臓 1.33

2. 文部科学省の報告

(内訳 肝癌 2.3倍、胃 0.68

(内訳 肝癌 2.7倍、胃 0.47

3. 欧米の報告

1.52倍(男女平均 肝癌 2.5倍、子宮 2.1、大腸 1.3、乳房 1.2前立腺 0.84) 

1.62

最後に、最近話題になっている抗癌作用をもつといわれる糖尿病治療薬についてお話します。 日本でも、欧米でも日常診療でよく使われているメトホルミン内服剤(メトグルコ、グリコラン)は癌発病と癌進行を抑制し、癌死亡率を低下させると報告されています。これらの報告は欧米の糖尿病学会で認めていることですが、日本糖尿病学会でははっきりした見解をだしてはいません。

その理由はおそらく欧米の糖尿病治療は最初にメトホルミンを使い、一人当たりの投与薬剤量は 日本の倍量をつかいます。もう一つの理由はこの抗癌作用の研究報告は今までの日常診療で得た成績(後ろ向き研究)、またはこれから研究計画を作って行う研究(前向き研究)で得た成績を統計解析して判定したものです。

メトホルミンの癌に対する効能効果を探る基礎実験(動物実験も含め)の乏しいことが定説とされない根拠かもしれません。おそらくメトホルミンの血糖降下作用であるインスリン抵抗性と肝臓のブドウ糖放出を抑えることが抗癌作用であるかもしれません。

戻る