糖尿病と心不全 2017.2.13 心臓は、全身に血液を送るポンプの働きをしており、心筋と呼ばれる筋肉でできています。そして、心筋に酸素や栄養を送る血管である冠動脈が、心臓を取り囲むように走っています。心不全とは、この心筋が厚くなったり、冠動脈が詰まったりして、ポンプの働きが低下し血液を全身に送り出す力が落ちた状態を指します。 近年日本では、高齢化や生活習慣病の増加により心不全が増え、その予防と管理が重要となっています。特に糖尿病は狭心症や心筋梗塞の合併が多く、心不全の重症化や予後不良の要因として重視されています。 糖尿病があると心不全を起こし易く、特にHbA1cが8.0%を超えるような血糖コントロール不良例では心不全入院が多いことが報告されています。糖尿病に心不全が合併しやすい理由は大きく3つ挙げられます。長い間血糖の高い状態が続くことで @血管が硬くなって動脈硬化を引き起こし、冠動脈の狭窄や閉塞をきたします。これは狭心症や心筋梗塞と呼ばれ、特に糖尿病は冠動脈の複数の箇所に病変を認めることが多いです。さらに、A高血糖に対してインスリンが過剰に出る状態が続くことで、心筋の肥大(厚くなること)や線維化(硬くなること)をきたし、血管の障害とは別に心筋の障害が生じます。また、B尿を作る臓器である腎臓が障害を受けることで、体内の水分量が過剰となり高血圧を引き起こし、タンパク尿が多量となると血液中のタンパク濃度が下がりむくみを引き起こします。この状態が糖尿病3大合併症の1つである糖尿病性腎症です。このように心臓、腎臓に障害を起こすことで容易に心不全をきたすこととなります。 心不全を見逃さないためには、呼吸困難や息切れ、咳込み、むくみ、体重増加、全身倦怠感、疲労感といった心不全を疑う症状に注意を払い、胸部X線、心電図、血液検査(心不全マーカーとしてBNP)を行うことが重要です。特に、糖尿病になってからの期間が長い方や血糖コントロールの悪い状態が続いている方は、年に1回はこうした検査を受けることが望ましいと考えます。 心不全の発症や進行を抑えるためには、日頃から減塩を心がけ心臓への負担を和らげる習慣を持ち、禁煙し体重コントロールを意識することが重要です。心不全の予防として血糖コントロールは重要であり、HbA1cを少なくとも8.0%未満に抑える必要があります。また、糖尿病のみならず高血圧や脂質異常症、肥満といった心不全の引き金となる病気の管理も重要であり、血圧や脂質も薬物を用いて適切にコントロールすることが大切です。 近年、糖尿病治療薬が増え、糖尿病の管理は飛躍的に向上してきました。各薬剤と心不全の発症や予後への影響が報告されています。心血管病や心不全への糖尿病治療薬の抑制効果に関しては、以前から報告のあるビグアナイド薬(メトホルミン)に加えて、最近では尿糖排泄促進薬であるSGLT2阻害薬の効果が期待されています。 医師 石井勝久
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