糖尿病患者の通院中断を減らすための
調査研究と対策
2018.3.16
厚生労働省が2016年に行った国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる患者は1000万人となりました。同省が実施している平成26年の患者調査によると継続的な治療を受けていると推測される総患者数は316万人とされており多くの患者さんが継続的な治療を受けていないことがわかりました。
また厚生労働科学研究の一環として「糖尿病予防のための戦略研究」が平成17年に開始されて10年以上が経過しました。(以下J-DOIT1,2,3と略称)その中のJ-DOIT2は受診中断についての調査研究です。糖尿病を専門としない医療機関においての調査ですが、年間8%の患者が通院を中断していることがわかりました。また治療を2か月以上中断した患者は、通常診療群では8.25%に対し診療支援群では(定期的な栄養指導・看護師による療養指導・電話での受診勧誘)では3.04%でした。診療支援を行うことで受診中断を約62%減少したことが明らかになりました。
治療中断歴のある患者さんの経過を紹介します。
□ Aさん男性 45歳 職業 タクシーの運転手
35歳の時に口喝と体重減少を認め当院受診した。受診時HbA1c14%
↓
血糖コントロール不良のため治療開始した。HbA1c6.5%になり体調も良好になった。数年間は定期通院していた。
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治療をやめてもさほど体調が変わらなかった為その後5年間通院中断。
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最近足が痺れてきたため当院受診した。受診時HbA1c12%
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治療開始し血糖も改善したが足のしびれが強くなり、通院中断前はなかった網膜症が進行し眼科でレーザー治療をした。しかしその後硝子体出血し手術となった。治療費は高くなるが、しびれや視力低下があり仕事を続けられるか心配している。
当院でも通院を中断したために合併症が進行してしまう患者さんは当院でも多く居ます。
J-DOIT2の結果における通院中断者の特徴は、
@
男性で仕事を持っている。
A
高齢者に比べ若年者(50歳未満、特に20−30歳代)で受診中断が多い。
B
血糖コントロール不良(HbA1c8%以上)、また逆に血糖コントロールが極めて良好な人
C
過去の受診中断歴がある人は中断歴がない人と比べて約3倍受診中断率が高い。
通院中断の理由は「体調が良いから」「なんとなく」等の通院の必要性の理解不足や、「医療費が高い」といった経済的理由、「仕事や学業で忙しい」「家族の事情で忙しい」といった優先度の理解不足などがあげられた。
九州大学の福田治久准教授(社会健康医学)らは2016年11月に2型糖尿病患者1万人以上を追跡調査した結果では治療を始めて1年以内に中断した人は受診を継続した人と比べて網膜症や腎症神経障害を発症する確率が1.8〜2倍に高いと報告しています。また治療中断すると合併症のため医療費の総額は大きくなることを示しました。
これらの結果も踏まえてパソコンやスマートフォンの画面上で相手の顔を見ながら通話する「オンライン診療」が4月から公的医療保険の対象となる予定です。処方箋は郵送してもらい近くの薬局で薬を受け取れます。多忙な患者の受診中断の防止に役立つと期待されています。
この方法は患者さんにとって大変都合がよいですね。旅行、仕事、病気で通院できない人には助かるやり方で今流行りの通話機器を上手に利用しています。
しかし、安全な薬治療や季節ごとのライフイベント(忘年会・正月・年度末・新入学)による血糖コントロールへの影響やその対処法を患者さんと一緒に振り返り、対策を立てるには毎月の受診は望ましいと思います。
当院では3−6か月通院が中断すると手紙にて受診を勧めており、ある一定の成果を上げています。
坂井恵子医師
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