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糖尿病から心不全への進行を防ぐ

SGLT2阻害薬への期待

2020.6.15

  医師 石井勝久

心不全とは、心臓が悪いために息切れ、むくみ、疲れやすいなどの症状がみられ、次第に悪化し生命を縮める病気です。心臓は加齢とともに心機能が低下しやすいため、心不全は年齢と共に発症頻度も増加し、繰り返すことが多いのが特徴です。心不全の原因となる心疾患はいろいろありますが、@虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、A高血圧、B弁膜症の順に多いです。今後の日本は高齢化社会を迎え、心不全患者の急増「心不全パンデミック」が予想されています。心疾患は日本人の死因のなかでは癌に次いで2番目に多く、その心疾患のなかで死亡数がもっとも多いのが心不全です。

糖尿病は虚血性心疾患や高血圧の合併が多く、心不全の重症化や予後不良の要因として重視されています。長い間血糖の高い状態が続くことで @血管が硬くなって動脈硬化を引き起こし、冠動脈の狭窄や閉塞をきたします。狭心症や心筋梗塞です。A高血糖に対してインスリンが過剰に出る状態が続くことで、心筋の肥大(厚くなること)や線維化(硬くなること)をきたし心筋の障害が生じます。糖尿病性心筋症と言われます。B腎臓が障害を受け、体内の水分量が過剰となり高血圧を引き起こし、タンパク尿が多量となりむくみが生じます。糖尿病性腎症です。糖尿病は心臓、腎臓に障害を起こすことで容易に心不全をきたすこととなります。

このような状況から、糖尿病の治療をしながら、心不全を予防することが課題とされてきました。糖尿病治療薬の心不全抑制効果に関しては、以前から報告のあるビグアナイド薬(メトホルミン)に加えて、最近ではSGLT2阻害薬の有用性が次々と報告され注目されています。

SGLT2阻害薬は、血液中の過剰な糖を尿中に排泄することで血糖値を下げる薬ですが、他にも様々な良い効果があることが解ってきました。@塩分も排出され、尿量も増えるため、体内の水分量が減ることで血圧が少し下がる。A個人差はありますが、尿糖として1日あたり約80g(320Kcalに相当)が排出され、カロリーを体外に出すことで体重が減りやせます。これは1日約300Kcalのカロリー制限をしていることとなり、平均すると半年で約23kgの体重減少効果がみられます。B内臓脂肪が減少することで、長い目でみると動脈硬化の抑止や心血管病の発症予防につながります。C蛋白尿を減らし、腎機能を保護する効果も報告されています。これらの効果が心不全予防に役立っているものと考えられています。

肥満・糖尿病における心不全予防、さらには心不全を合併した糖尿病に対する治療としてSGLT2阻害薬の効果が期待されています。

 

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