注目される異所性脂肪とは
2020.8.20
医師 坂井恵子
体の脂肪といえば皮下脂肪、内臓脂肪が話題になりますが、もう一つ「異所性脂肪」が最近注目されています。異所性脂肪とは脂肪組織以外に蓄積する脂肪を示しています。よく知られているのが脂肪肝です。最近では肝臓だけでなく、筋肉・心臓・すい臓にも脂肪がたまりそのことが体に悪影響を及ぼすことがわかってきました。
本来脂肪組織は、エネルギーの「貯蔵庫」としての役割があり、余剰エネルギーを中性脂肪として蓄えて、栄養不足になると蓄えていた中性脂肪を分解して遊離脂肪酸などにして全身に供給する働きがあります。
しかし食べ過ぎ飲みすぎが続くと始めは脂肪細胞数が増えて頑張って脂肪を蓄えようとしますが、この状態が続くと徐々に脂肪細胞が肥大して脂肪を蓄えることができなくなります(機能不全)。
機能不全となった脂肪細胞から蓄えきれなくなった脂肪が、血液を介して肝臓・筋肉・心臓・すい臓にたまっていきます。これらの臓器に脂肪がつくとどうなるのかお話しします。
1、肝臓:検診受診者の2〜3割の人には脂肪肝がありその頻度は年々増加しています。
脂肪肝は、以前はアルコール摂取によるものが多かったのですが、最近は糖尿病や肥満など生活習慣病に伴い発症することが多くなってきています。脂肪肝だけならいいのですが、そこに炎症が加わり非アルコール性脂肪性肝炎→肝硬変→肝臓癌が発症することがわかってきました。
2、筋肉:脂肪細胞からあふれて放出された遊離脂肪酸は筋肉の中に中性脂肪の形で蓄えられ"霜降り肉"のようになります。また脂肪を蓄えて肥大した脂肪細胞からは筋肉でインスリンの効きを悪くするアディポカインを放出します。
3、心臓:近年は肥満症によって心臓血管病(狭心症や心筋梗塞)を引き起こす原因として心臓や心臓の周りの血管についた脂肪『心臓脂肪・血管周囲脂肪』が注目されています。
また、肥満症の中でも皮下脂肪型肥満よりも内臓脂肪型肥満の人、また脂肪肝がある人は『心臓・血管周囲脂肪』が多いことがわかっています。
4、すい臓:元々すい臓には脂肪細胞が存在していましたが、最近では糖尿病や肥満が原因ですい臓に脂肪細胞が増えることによる非アルコール性脂肪性膵疾患という病気が起こることがわかってきました。
高インスリン血症(インスリンが過剰分泌の状態)はすい臓の脂肪化を進めることやすい臓の脂肪蓄積が多い糖尿病患者さんは時間の経過とともにインスリン分泌が低下していることも解っています。《すい臓における脂肪蓄積→すい臓の炎症を起こし→すい臓のβ細胞機能障害→インスリン分泌の低下やβ細胞の低下に関係している可能性がある》
また、すい臓がんの患者さんの癌ではない部分の正常なすい臓を調べると脂肪細胞が多く認められることも解っており、すい臓における脂肪細胞の蓄積がすい臓がんの発症と関連している可能性が報告されています。
異所性脂肪を評価する方法の一つとして腹部エコー検査で脂肪肝や内臓脂肪厚を測定することができます。ここで3人の方の腹部エコー所見を紹介します。
・Aさんは、身長165cm、体重66kgと普通体重。
腹部エコーでは皮下脂肪厚が11mm・内臓脂肪厚19mm。脂肪肝あり。
・Bさんは身長157cm、体重76kgと肥満症。
腹部エコー検査では皮下脂肪厚19mm・内臓脂肪厚10mm。脂肪肝あり。
・Cさんは身長151cm 体重50.5kg普通体重。
腹部エコーでは皮下脂肪厚25mm・内臓脂肪厚10mm。脂肪肝なし。
BさんとCさんを比較した場合、体重を見るとBさんは肥満症ですが、腹部エコー検査ではCさんの方が皮下脂肪厚が大きいことがわかります。
また、心筋梗塞を経験したAさんは内臓脂肪>皮下脂肪であることがわかります。
Aさんの心筋梗塞は脂肪だけが原因ではありませんが、腹部エコー検査で異所性の脂肪の程度がわかります。
治療を詳しく述べると長くなるので省略しますが、糖尿病の現在の治療と大きく変わりません。
日本の肥満人口が過去40年で3倍となり肥満の人が増えています。
私たちは毎月のHbA1cに注目していますが、隠れた脂肪がインスリンの効きを悪くしたり、癌や動脈硬化にも影響しているのです。血糖ばかりではなく『脂肪』も注意という事でしょう。
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