糖尿病高齢者の介護と治療 2022.1 いま日本の糖尿病人口は増大しており、特に糖尿病高齢者が著しく増えてきています。 糖尿病の人は血糖値が高くなり易い体質を持っていると考えられてきました。しかしその高血糖の糖尿病対応を一様に考えて治療していくのには不都合なところがあります。区別して考えていかねばならない糖尿病とは、小児を含めた若年糖尿病と成人糖尿病の治療は同等とみなして治療していくわけにはいきません。また妊婦も妊娠月数によって考えていかねばなりません。このように患者の生活条件、身体活動条件(ADL)によっては一般の患者と異なる診療を考えていかねばなりません、手前味噌の余談になりますが、相撲界の元大関隆の里関の糖尿病を診てきました。春場所までの相撲をみて、高血糖と低血糖を繰り返している相撲では昇格はないと考えて、内服剤治療からインスリン治療に変えることを勧めました。 隆の里関はしばらく考えていましたが了解してくれてインスリン治療に切りかえました、そしてその年の秋場所では、千秋楽で横綱千代の富士関に勝って全勝し、横綱に昇進しました。土俵に上がる前は十分に食べ、血糖値を200から300r/dlにして安心して勝負に臨んだようです。 当院一階の廊下には隆の里とのお付き合いの数々の記念写真を展示しています。 最近の調査によると高齢者糖尿病が増大しており平成二十九年の患者調査によると糖尿病患者数は三百二十八万九千人と推計されています。平成三十年国民健康、栄養調査によると、七十歳以上では、糖尿病が強く疑われる群と可能性が否定できない群を合わせて四十六・九%となっています。 これらの調査結果から日本糖尿病学会と日本老年医学会は低血糖と患者の高齢化に伴う認知症を考慮して新たに「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(ヘモグロビンA1c値)」の参考書を二0一七年に作りました。すなわち高齢者の日常生活における身体活動と知能活動から考えて判断します ・手段的日常生活動作IADL(料理、交通機関の利用、服薬、金銭管理) ・基礎的日常生活動作BADL(食事、排泄、着衣、入浴、移動)
高齢者のHbA1Cについては理想目標は七・〇%でありますが、治療効果が困難な場合は八・〇%未満とします。重篤な併存疾患をもち、社会的サポートが乏しい場合は八・五%未満とします。 SU薬、グリニド薬、インスリン注射には充分注意し、加えて認知症、うつ病を併発している時はHbA1c下限値にも配慮することが示唆されています。 患者は勿論、その家族も経験がないため周りの状況をみて問題を解決しているのが実情と思われます。国政として厚生労働省が指針をだしてレールは敷かれています。診療の場においては病診連携で入退院、検査依頼、専門科受診のネットワークは整っています。 しかし検査、治療の診療形態では患者の対応は済まされず、いずれ介護、看護、生活指導、教育指導が必要となる時期が来るでしょう。 現在では患者の生活管理、介護、看護サービスに係わる地域包括ケアシステムがあり、患者家族の相談にのってくれます。更に各市町村には中学校が配置されている範囲で地域包括支援センターがあり、保健師、看護師、ケアマネ‐ジャア、社会福祉士がいて、患者の身の回りの問題解決のため知識提供、相談に乗ってくれます。最近は糖尿病によく併発される認知症患者が多くなり、認知症疾患医療センターが相談に乗ってくれています。 ――――――――――――――――――――――――――――― 血糖測定器の進歩 糖尿病という病気は血糖(血液中のブドウ糖)が高くなり易い体質ともいえます。ブドウ糖という栄養分が豊富で、身体の発育は良く、元気な身体になって羨ましいと受け取る人がいるかもしれません。しかし身体の余分なブドウ糖が生理的に体外に廃棄処分されるのなら、その理屈で良いのかもしれません。しかしほどほどの血糖値で止まらないで、高すぎる数値になると何らかの症状が出てきて合併症という重荷を持つことになります。これが糖尿病の隠れた本性なのです。 糖尿病は直せませんが、この高血糖を下げる工夫は数々の経口剤やインスリン、併せて食事療法で高血糖を押さえることはできます。その高血糖経過を早く察知するために、患者が自由に、いつでも、どこでもひとりで計れる自己血糖測定器(SMBG)が一九八六年に初めて登場しました。しかもこの測定器はインスリン治療している患者には必要不可欠なもので、自分の糖尿病を素早く管理することができます。例えば糖尿病の男の子が屋外で遊んでいます。気分が悪くなりSMBGを調べて血糖値が低いと分かれば何か甘いものを食べて血糖値を確認すれば良いのです。 一九八一年に「血糖の自己測定と糖尿病管理」と題した第一回シンポジュウムがあって、当時の糖尿病学会理事長小阪樹徳と理事平田幸正の尽力により一九八六年に自己血糖測定は保険診療の対象検査となりました。 アメリカでは一九七四年エームス社が簡易血糖測定器を開発しました。 検査用紙に塗ってある酵素と血糖が反応するものでした。日本では一九九一年に京都第一科学(アークレイ)社の開発したものが最初の市販品となります。多くの条件をクリアした製品で、短時間、小型化、血液は水洗でなく拭き取るもので、海外旅行中の携帯などを可能としたものです。次に測定器に希望することはデータが記録されること、一点の時間だけを診るのではなく連続した血糖値が分かる測定器が要望されました。つまり二十四時間、三日間、一週間連続測定できるものです。これは糖尿病管理の上で画期的な機器といえます。 最近の測定器の好ましいところは、直接血糖を調べるのではなく皮下組織の間質液の糖度を調べ血糖値に換算して表示します。次に測定器に要望されることはデータが記録され印字できること、しかもデータが一週間又は二週間で記録として残ることでした。二〇一八年十二月一日に発売された測定器(CGM)はこれらの要望をクリアしてくれました。 要するに血糖値は一点の時間でしらべるのではなく、連続曲線で判断することになります。その要望に適った機器(ミニメド六二〇G)はSAP療法と言われ臨床に登場しました。これによって今まで見過ごされていた時間帯の血糖値の変化が明らかになりました。 まず@睡眠中の低血糖の起こる機序が分かりました。A次に同一の食事を摂取してもその食事時間が遅れると血糖値が高くなる。B朝食後のみの高血糖はHbA1cへの影響は少ない。C過度の運動後では高血糖の起こる可能性が推測されました。 しかし、これらの血糖変動は必ずしもHbA1cに反映されるものではないようです、血糖値の問題はこれからもインスリン治療の問題とあわせてまだ続くと思われます。 海外ではCGMの目標血糖範囲が70〜180r/dlの中に止まる頻度が70%以上にすることを目標として、HbA1cに及ぼす影響を調べています。 今はCGMで血糖値測定し、インスリン注入器と合体した治療法、CGM連動インスリン注入療法が展開されています。 血糖値の問題はこれからも、膵臓の病像が解決されない限りは、インスリン治療の問題と併せてまだ続くと思われます。 |