2022年度 糖尿病学術集会を聴講 2022.8.1 ここ数年は、糖尿病(1型・2型共に)を持つ患者さんの高齢化に伴う治療方法、最新の治療薬や検査機器についての報告などが多く取り上げられており、さらに今年はコロナ関連の話題やスティグマについての講演もありました。 それぞれエッセンスだけお話ししますと、
1.高齢化に伴う糖尿病治療法について 外来でも時々「自分が将来認知症になったらインスリン自己注射できるだろうか」といった声を聴きます。超高齢者の治療法は、安全性を第一に治療を単純化するという一方で、1型糖尿病のようにインスリンが必須な方は高度なインスリン調整も考えるべきと話していました。高度なインスリン調整というのは例えば持続的に血糖を測定しながらそのデータを家族や介護者に通信し低血糖を回避しながら治療をする方法なども紹介されていましたが多くの患者さんにはまだ実践されていないようでした。
2.最新の治療薬や検査機器について 昨年9月に世界に先駆けて日本で新発売になった住友ファーマーの「ツイミーグ」という薬についての報告が多くみられました。「ツイミーグ」は細胞内にあるミトコンドリアといわれる小器官に働く薬で、すい臓に働いてインスリンを分泌させたり、筋肉や肝臓に働いてインスリンの効きを良くしたりする働きがあります。いままでミトコンドリアに作用する糖尿病治療薬はなかったので、ミトコンドリアについて勉強できる講演が多く開催されていました。今後当院でも使用するかもしれません。
3.コロナの話題 これから4回目ワクチン接種の患者さんも多いと思います。 イスラエルが早くから4回目のワクチン接種を済ませており、その報告がありました。 4回目のワクチンを受けることでコロナ感染が重症化する割合は1/4に減少し、副反応については3回目と同程度との報告でした。 4スティグマ 「糖尿病」というだけで保険に加入できない、ローンが組めない、自己管理ができない人がなる病気、そういった差別や偏見を受けることをスティグマといいます。そして、社会的な差別や偏見に対して正しい知識を伝える活動を「アドボカシー活動」といいます。日本ではあまり進んでいませんが海外(特にアメリカ糖尿病学会)では十数年前から糖尿病を持つ子供たちが恥ずかしがらずにインスリン注射をすること、多くの人に糖尿病の正しい知識を広める活動をしています。日本はようやく医療者や企業、学校関係者を中心に活動が始まっています。
次に今回の学会で「食事療法の最前線」というシンポジウムでの早稲田大学先端理工学部柴田重信教授の講演が興味深い内容でしたので紹介します。 日本の高齢化に伴って筋肉量の低下が問題になっていますが、筋肉量を増やす食事の仕方についての研究結果が報告されていました。 日本人は朝食のタンパク質(肉・魚・卵・豆)の摂取量はそもそも少ないのですが、1日のタンパク質摂取量を変えずに3食均等にタンパク質を摂取した群と朝食と昼食のタンパク質は少なく、夕食に多くタンパク質を摂取した群を比較した時、3食均等にタンパク質を摂取した群のほうが優位に筋肉量が増加していました。 また、ネズミの実験において骨格筋の中には体内時計をつかさどる時計遺伝子があり朝タンパク質を摂取した8時間後(すなわち夕方頃)に筋肉がより多く作られるそうです。 また午前中にタンパク質を取ることは腕立て伏せや腹筋の回数も増え、身体活動量も増えると報告していました。つまり朝食にタンパク質を取ることは筋肉量も増えて体力もアップするようです。具体的には朝食に牛乳やヨーグルトの乳製品や卵料理をしっかり食べたり、午前中に乳製品をとることを勧めていました。 また、今年5月の「サイエンス」という科学雑誌の中でネズミを使った絶食時間と寿命についての報告がありました。寿命はカロリー制限をした群で優位に伸び、食事の摂り方で見ると1日中食べていたネズミと絶食時間を12時間作ったネズミでは、絶食時間を作ったネズミの寿命は長くなりました。 絶食時間を持つ、つまり夜遅くまでだらだらと食べないということは、老化を進めないという結果だと思います。 食事療法の最近の話題をお伝えしましたが、上述した柴田教授の話は実は日本糖尿病協会が発行している「さかえ」の今年の4月号に「時間栄養学」という企画の中で紹介されています。学会の最新の話題は「さかえ」には多く掲載されていますので皆さん是非読んでみて下さい。
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坂井恵子医師 |